産業医とは?

産業医とは、医学の専門知識を持つ医師で、職場において労働者の健康管理を行う重要な役割を担います。事業者は、事業場の規模に応じて産業医を選任し、労働者の健康管理を行うことが義務化されています。

産業医とは

産業医とは、事業場において従業員が健康で快適に働ける環境を整えるために、専門的な立場から指導や助言を行う医師のことです。

産業医学の専門家として、産業保健の理念や労働衛生に関する知識をしっかりと持ち、従業員の健康障害を予防するだけでなく、心身の健康を維持し、向上させるための活動を行う役割を担っています。

産業医の条件

1996(平成8)年の労働安全衛生法の改正により「産業医は労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める一定の要件を備えた者でなければならない」と規定されています(安衛法第13条第2項)。

その要件とは以下の通りです。

(安衛則第14条第2項)
(1) 厚生労動大臣が定める産業医研修の修了者。 これに該当する研修会は日本医師会認定の産業医学基礎研修と産業医科大学の産業医学基本講座があります。

(2) 労働衛生コンサルタント試験(試験区分保健衛生)に合格した者。
(3) 大学において労働衛生を担当する教授、助教授、常勤講師の職にあり、又はあった者。
(4) 産業医の養成課程を設置している産業医科大学その他の大学で、厚生労働大臣が指定するものにおいて当該過程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者。

産業医と一般的な医師(臨床医)との違い

  産業医 一般的な医師(臨床医・主治医)
活動場所 企業や団体 病院
対象者 企業の従業員(健康な人も含む) 患者(不調や病気を抱えている)
契約相手 事業主 患者
役割
  • 従業員の健康を守り、職場での適応を支援
  • 職場環境について企業に助言
  • 復職判定 等
検査・治療
立場 企業と従業員に対して中立的な立場 患者に寄り添う立場

一般的な医師(臨床医・主治医)とは、診断や治療を行う医師のことを指します。一方、産業医は診断や治療はせず、働けるかどうかを判断する医師です。

例えば復職判定の場面において、患者が復職を希望した場合、一般的な医師(臨床医・主治医)は職場や業務についての知識がないため、日常生活を送ることができるレベルで「復職可能」と診断することがあります。

しかし、日常生活を送る程度に回復していても、職場で仕事をするほどまでには回復していない場合があります。産業医は、休職者が実際に仕事に戻ったときに会社が期待するパフォーマンスを発揮できるかどうかしっかり見極めるという役割があります。

産業医の役割・職務内容

産業医は労働者の健康管理等を行う役割を担っています。
産業医の職務は、法律上9つに分類されています。

産業医の職務(労働安全衛生規則第14条第1項)
①健康診断の実施とその結果に基づく措置
②長時間労働者に対する面接指導・その結果に基づく措置
③ストレスチェックとストレスチェックにおける高ストレス者への面接指導その結果に基づく措置
④作業環境の維持管理
⑤作業管理
⑥上記以外の労働者の健康管理
⑦健康教育、健康相談、労働者の健康の保持増進のための措置
⑧衛生教育
⑨労働者の健康障害の原因の調査、再発防止のための措置

産業医が企業に関与することで得られるメリット

産業医が企業に関与することによって期待される主なポイントを以下に示します。産業医には、医療の観点から従業員の健康維持や職場環境の向上に関する助言を受け、より快適な職場を築くために共に考えてもらうことが重要です。

① 健康診断とその結果に基づく措置

産業医は健康診断の結果を詳細に分析し、従業員の健康状態を把握します。異常値やリスク要因が見つかった場合、産業医は次のような措置を提案します。

  • フォローアップの推奨: 異常がある場合、専門医によるさらなる検査や治療を受けるよう勧めます。
  • 健康教育: 健康診断の結果をもとに、従業員に対して健康管理に関する教育やセミナーを実施します。
  • 生活習慣改善プラン: 食事、運動、睡眠などの生活習慣の見直しを促し、具体的な改善策を提案します。
  • 職場環境の調整: 健康上の問題に応じて、勤務形態や業務内容の変更を行うこともあります。

これにより、早期に健康課題に対処し、労働者の就業状態を維持することが可能となります。

② 治療と仕事の両立支援

産業医は、従業員が治療を受けながらも円滑に業務を遂行できるように支援します。具体的な支援内容には以下があります。

  • 勤務形態の調整: 治療の進行状況に応じて、フルタイムからパートタイムへの変更や、柔軟な勤務時間を提案します。
  • 職務内容の見直し: 健康状態に応じて、負担の少ない業務に変更することや、特定の業務を一時的に免除することを検討します。
  • サポート体制の整備: 従業員が必要とするサポート(カウンセリング、メンタルヘルス支援など)を提供し、治療と仕事の両立を助けます。

これにより、従業員が健康を回復しながらも、職場での役割を果たせるようになります。

③ ストレスチェック制度や長時間労働者への対応

産業医はストレスチェック制度を実施し、従業員のメンタルヘルスを評価します。この制度の目的は、ストレスによる健康問題を早期に発見し、適切な対策を講じることです。

  • ストレス評価: 定期的にストレスチェックを行い、従業員の心理的健康状態を把握します。
  • 支援策の講じ: ストレスが高いと評価された従業員に対して、カウンセリングやメンタルヘルスプログラムを提供します。
  • 長時間労働者への対応: 長時間労働を強いられている従業員には、労働時間の見直しや業務負担の軽減策を提案し、健康を守るための施策を実施します。

これにより、労働環境の改善と従業員のメンタルヘルスの向上が図られます。

④ 職場巡視

産業医は定期的に職場を巡視し、労働環境や衛生状態を確認します。この巡視の目的は、潜在的な健康リスクを早期に発見し改善策を提案することです。

  • 職場環境の評価: 労働条件や作業環境(照明、騒音、温度など)を評価し、リスク要因を特定します。
  • 衛生状態の確認: 衛生管理状況や感染症対策が適切に行われているかをチェックします。
  • 改善提案: 見つかった問題点に対して、具体的な改善策を企業に提案します。

これにより、従業員の健康を守るための職場環境の整備が進みます。

⑤ 衛生委員会

産業医は衛生委員会のメンバーとして、職場の健康管理や安全衛生政策についての議論に参加します。この委員会の役割は、労働者の健康を守るための方針を策定することです。

健康管理方針の策定
  • 健康管理方針の策定: 職場の健康管理や安全衛生に関する方針を協議し、具体的な施策を決定します。
  • 情報共有: 健康診断の結果や職場環境の評価を基に、従業員に対して情報を提供します。
  • 施策の実施状況の確認: 既存の健康管理施策の効果を評価し、必要に応じて見直しを行います。

これにより、企業全体で健康管理に対する意識が高まり、従業員の安全と健康が確保されます。

⑥ 情報管理

産業医は従業員の健康情報を適切に管理し、プライバシーを保護します。この情報管理は、企業全体の健康管理戦略において重要な役割を果たします。

  • プライバシーの保護: 健康情報は機密情報として扱い、外部に漏れないように厳重に管理します。
  • 情報の活用: 健康情報をもとに、リスク評価や健康管理施策の策定に役立てます。
  • 法令遵守: 健康情報の管理に関する法律や規制を遵守し、適切な運用を行います。

これにより、健康管理の透明性が高まり、従業員の信頼を得ることができます。

これらの役割を通じて、産業医は企業の労働環境を向上させ、従業員の健康を守る重要な存在となります。

産業医を選任する義務がある企業とは?

産業医の選任にについて事業場の業種や規模に応じて、選任すべき産業医の種類が異なります。

「専属産業医」と「嘱託産業医」の違い

専属産業医とは?

専属産業医とは、特定の事業場で常勤として働く医師のことです。通常、週に4~5日程度出勤します。

1,000人以上の労働者を雇用する事業場や、多量の危険物を扱う業務については、500人以上の労働者を雇用している場合も専属産業医の選任が求められます。

また、3,001人以上の労働者を常時雇用している事業場では、専属産業医を2名以上選任しなければなりません。

嘱託産業医とは?

嘱託産業医とは、非常勤で勤務する産業医のことです。月に1回程度の出勤が一般的ですが、その業務内容は専属産業医とほとんど変わりません。

50人以上999人以下の労働者を常時雇用している事業場では、産業医の選任は嘱託(非常勤)で問題ありません。このため、開業医や勤務医が日常診療を行いながら、産業医としての役割を果たすケースが多く見られます。

 

従業員50人以上では義務

産業医は常時雇用の従業員50人以上の職場で選任することが義務付けられています。配置人数は事業場の規模に応じて異なります。

【従業員数は非正規雇用の職員も含みます】

従業員数は、正社員だけでなく、契約社員、派遣社員、パートタイマー、日雇労働者など、常時雇用しているすべての従業員を含める必要があります。

「常時雇用している労働者の数」は、事業の規模を判断するための重要な要素ですので、短時間勤務の労働者や短期雇用の従業員も必ずカウントする必要があります。

従業員のカウント方法について不明な点がある場合は、所轄の労働基準監督署に問い合わせることをおすすめします。

従業員数と産業医配置人数

常時雇用の従業員数 産業医配置人数
50人未満 産業医の選任義務なし
50人以上999人以下 1名以上選任(嘱託可)
1,000人以上3,000人未満 1名以上選任(専属)
3,001人以上 2名以上選任(専属)

有害業務に500人以上の労働者を従事させる事業場においては、専属の産業医の選任が必要です。

有害業務は安全衛生規則において定義されています。

労働安全衛生規則13条1項2号

イ 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
ロ 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
ハ ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
ニ 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
ホ 異常気圧下における業務
ヘ さく岩機、鋲(びょう)打機等の使用によって、身体に著しい振動を与える業務
ト 重量物の取扱い等重激な業務
チ ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
リ 坑内における業務
ヌ 深夜業を含む業務
ル 水銀、砒(ひ)素、黄りん、弗(ふつ)化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカ リ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
ヲ 鉛、水銀、クロム、砒(ひ)素、黄りん、弗(ふつ)化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫 酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ず る有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
ワ 原体によって汚染のおそれが著しい業務
カ その他厚生労働大臣が定める業務

 

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